IPM(総合的病害虫・雑草管理:Integrated Pest Management)とは複数の防除技術を組み合わせ、病害虫の発生被害が経済的に問題にならない水準(経済的被害許容水準以下)に抑える技術のこと。組み合わせる防除技術は以下が挙げられる。
・化学的防除・・・化学農薬や除草剤を用いた防除法
・生物的防除・・・有用天敵や微生物を用いる防除法
・耕種的防除・・・作物の栽培環境や栽培時期を変えたり、作物の種類や品種等で病害虫の発生を抑える防除法
・物理的防除・・・害虫に関しては、捕殺や粘着トラップ、誘蛾灯といった直接害虫を防除する方法や防虫ネットや反射シートのように侵入を防止する防除法、緑や黄色蛍光灯による忌避による防除法
-解説-
IPMの考え方で重要なのは病害虫の発生をゼロにするのではなく、経済的被害許容水準以下の密度を維持するということである。
1966年にFAO(国際連合食糧農業機関)は「あらゆる適切な技術手段を相互に矛盾しない形で使用し、経済的被害を生じるレベル以下に有害生物個体群を減少させ、かつその低いレベルに維持するための害虫管理システム」と定義しているが、2003年には「IPMは、利用可能なすべての防除技術を経済性を考慮しつつ慎重に検討し、病害虫・雑草の発生増加を抑えるための適切な手段を総合的に講じるものであり、これを通じ、人の健康に対するリスクと環境への負荷を軽減、あるいは最少の水準に留めるものである。また、農業を取り巻く生態系のかく乱を可能な限り抑制することにより、生態系が有する病害虫及び雑草抑制機能を可能な限り活用し、安全で消費者に信頼される農作物の安定生産に資するもの」と再定義している。
再定義されたIPMは食の安全安心を求める消費者からの要求に応えつつ、野生生物等の生物多様性の保全を考慮した環境保全型農業や持続型農業への発展を期待している。従来のすべて化学農薬等に頼る防除方法ではなく、自然が持つ抑制機能を最大限に活用した後世に残せる持続性の高い農業を展開していくことが必要ではないだろうか。
参考文献
・仲居まどか・日本典秀 (2022) バイオロジカル・コントロール 第2版,朝倉書店
・中筋房夫 (1997) 総合的害虫管理学,養賢堂